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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(行ツ)9号 判決 1974年6月04日

兵庫県宝塚市雲雀丘一丁目三番三七号

上告人

武智祥行

大阪市東区大手前之町

大阪合同庁舎第一号館

被上告人

大阪国税局長

山内宏

右当事者間の大阪高等裁判所昭和四二年(行コ)第二六号、同四三年(行コ)第三号審査決定一部取消請求控訴及び同附帯控訴事件について、同裁判所が昭和四八年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

所論の点に関する原審の認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同二について。

原判決が、その挙示の証拠関係により、武智亀吉が上告人に所論の物件を贈与した事実を認定したものであることは、原判決の判文上うかがわれるところであつて、その所有権移転登記が後日錯誤を理由として抹消されただけでは、先の所有権移転が錯誤に基づくものであつたことまでが推定されるものではない。

よつて、行政事件訴訟法第七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正已 裁判裁 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

(昭和四九年行ツ第九号 上告人 武智祥行)

上告人の上告理由

原判決には次の如き経験則に反し、且つ又、著しく理由不備があり、破棄されるべきである。

一、原判決第一目録(4)の物件について、

本物件は昭和三一年初め頃建築したもので、未登記、未登録物件であつたが、昭和三二年一〇月二四日、大阪市西淀川区役所固定資産台帳に、上告人名義でもつて、登載された。

ところが、被上告人は、その間、訴外亀吉名義で、第三者に賃貸していた事実をもつて、本物件は、元来、亀吉の所有物件であつたものが、原告に贈与されたものと見做しており、原判決も結論として、これに同調し、上告人提出の、乙第九号証、乙第一四号証、乙第一五号証に対し、信ぴよう性に疑問を持ちこれを支持していない。

しかしながら、訴外亀吉が、自已名義をもつて第三者に賃貸していた事実からして、直ちに、所有が認められるものではなく、ましてや、右亀吉が、家屋賃貸を業としているものであること、及び、上告人が亀吉の孫である関係をすれば、亀吉が孫の物件を第三者に賃貸するに際して、自已名義を使用することは珍らしきことではない。

かかる事実からすれば、賃貸人名義をもつて、直ちに、所有権を推認することは、著しく、社会常識に反するものである。従つて、かかる場合は、被上告人において、上告人の反証を破り、上告人に対する贈与を、証拠を掲げて、立証しなければならない。

然るに、原判決は、上告人において、自已の所有権の立証をなさしめ、これにつき、疑問あるとして、直ちに被上告人の主張と同一の結論に達していることは、民事訴訟法の立証責任の原則を誤つたものであると言わなければならない。

二、原判決第二目録(イ)、(ロ)の物件について、

(一) 上告人は、本件各物件について、昭和三三年四月二日付でもつて売買を原因として、訴外亀吉より、上告人に対して、所有権移転登記がなされたが、右登記は、訴外亀吉の錯誤によつてなされたものであつて、両当事者間には、贈与はもちろん、売買の事実はなく、右登記は、実体の伴わないものであるから昭和三五年五月二八日、錯誤によつて、右所有権移転登記の抹消手続をなし、登記上においても、所有名義人を訴外亀吉に復せしめたものであるから、被上告人のなした贈与としての課税処分は間違つている旨、主張しているものである。

(二) 然るに、原判決は、右上告人の主張を曲解し、本売買は、贈与の事実を隠まための仮装売買であるとする被上告人の主張に惑わされ、所有権移転登記の原因は、売買とは認められず、贈与であるとの観点によつて判決理由が書かれており、上告人の主張する、贈与の事実も、売買の事実も存在しなく、右登記は、誤つてなされたものにしか過ぎない。従つて、右誤つた登記は抹消しているという主張に対しては、何ら審理していなく、判決書の理由は全く、的外れのものとなつている。具体的に言えば、次のとおりである。

原判決は、理由欄二の1の(4)には、「七五万円が本当に支払われたのかどうか判然としない」とし、又二の2では、売買契約書には、当時七五円の代金の授受があつたとされているが、前記認定事実によると果して、このとおりであつたか疑問である」として、上告人と訴外亀吉間に、七五万円の授受があつたか否か判然とせず、従つて、売買とは認められず、贈与であると認定している。

しかしながら、上告人は七五万円で訴外亀吉と売買したとは主張しているものではなく、七五万円で売買があつたとして登記がなされたが、右登記は誤つてなされたものであると主張しているものである。

従つて、七五万円の授受の有無が判然としていないのではなく、右金銭の授受はなく、売買の事実は存在しないのである。

然るに、原判決は、上告人の主張を把握せず、本件登記は贈与を隠す、仮装売買であるとする被上告人の主張に惑わされ、かかる観点からのみ、判決しているものである。

これは著しき理由不備と言わなければならず、原判決は破棄されるべきである。

(三) 原判決は、二の3において、錯誤を理由に登記を抹消しているが、錯誤の立証がなく、且つ、登記を抹消したからといつて、課税処分を違法となすことはできないとしている。

しかしながら、「売買を原因として」所有権移転登記をしたが、右登記は錯誤であつたとする上告人の主張に対し、右登記は錯誤ではなく、贈与の事実があつたとする場合、その立証は被上告人においてなすべきものであり、登記の事実は、実体の存在を推定されるものではない。(仮りに、若し、登記より推定されるというならば、抹消登記により錯誤も又、推定されると言わねばならない。)

然るに、原判決は錯誤の立証がないとして、抹消登記があつても、課税処分が違法でないとすることは、これ又、民事訴訟の立証責任の原則を誤つたものと言わなければならない。

三、右のように、原判決は、民事訴訟法上による立証責任の原則論を誤り、加えて、上告人の主張を曲解し、判決理由に齟齬をきたしているから破棄されるべきものであるので、本上告におよんだものである。

以上

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